THE GUILD IKONOBE NOISE

2020年9月30日

THE GUILD -IKONOBE NOISE- 対談企画

THE GUILD-IKONOBE NOISE-ものづくり魂と新たな価値がにおい立つ新拠点

THE GUILD -IKONOBE NOISE-は、「つくる」「働く」「住む」が融合した、新たな時代の胎動を感じられる拠点です。建築の足場を思わせるファサードからは、ものづくりと働き方と暮らし方の創造性がまちに醸し出され、人々は直感的に「関わりしろ」をつかみ取りに行くはずです。

THE GUILD のオーナーで、地域工務店の3代目として大工や職人のリブランティングに取り組む桃山建設・川岸憲一と、建築・まちづくり・働き方と分野横断的に「新しい生活圏の創出」を仕掛けるplan-Aの相澤毅、日本でリノベーションの価値創造を牽引し、東京R不動産やtoolbox、エリアリノベーションで知られるOpen Aの馬場正尊が、THE GUILD -IKONOBE NOISE-を語ります。

■THE GUILD – IKONOBE NOISEが立ち上げられた目的

川岸憲一(桃山建設株式会社): THE GUILD として今、生まれ変わろうとしているこの物件は、築40年弱(昭和59年築)で、もともとは自動車工場として産声をあげました。桃山建設の木材加工場としての歴史は、昭和から平成になった時期に始まりました。当時の家づくりでは、大工が柱一本から手刻みで、たくさんの木材を加工し、ストックしていく場が必要な時代でした。桃山建設は、材木屋の出身だった私の祖父が昭和29年に創業しました。銘木市場で材木を仕入れ、生木を加工場で寝かして、来たるべきお客様のために備えていました。私たちは、お客様に対してなるべく「品番のないもの」「天然のもの」「職人の手仕事によるもの」をおさめ、30年、50年と使い継ぎメンテナンスのできる、そのような家や家具を、人の手でつくり出すことに力を注いできました。

昭和から平成になり、この30年間で、住宅業界の流れは大きく変わりました。住宅建材としての木材は、大工が一本一本手刻みしていたのが、製材の工業化と効率化によってプレカットが主流になり、材を組み立てれば家が建つようになりました。パワービルダーが台頭して短期間で一気に多棟を建てられるようになり、工期も短く価格も下がり、職人の手仕事で家を建てる大工工務店や町場の材木屋は苦境に立たされました。1980年の大工就業者数は94万人いましたが、2010年には40万人に減り、2030年には21万人になると言われています(NRI、2018年)。

川岸憲一(桃山建設株式会社)

取材は桃山建設の木材加工場にて。ここがTHE GUILD として生まれ変わろうとしている。

相澤毅(株式会社plan-A): 川岸さんからこの物件の利活用相談を受けたのは、横浜市青葉区にある桃山建設の拠点「BADAI BASE」でのイベントの時でした。桃山建設の本社は東京都世田谷区にあって、川岸さんのご実家だった場所をショールームとして2015年に整備したのが「BADAI BASE」です。桃山建設の次のステップとして、都筑区池辺町にある木材加工場兼倉庫の大規模修繕に伴い、新たなことをやってみたいという漠然としたご相談だったのですが、実際に池辺町に足を運んでみたら、加工場、倉庫、しかも共同住宅までついていて、「なんだ、これ?」と、この物件が持つ強い気配、パワーを感じて、これはおもしろくなるなと直感したんです。

物件の目の前には緑産業道路があり、エリアは工業ベルトとして開発されてきた歴史があり、道路を渡ってすぐ、徒歩1分ところに大規模商業施設の「ららぽーと横浜」がある。さらに、JR横浜線の鴨居駅から徒歩9分という条件は、不動産的にも恵まれています。これだけの商業施設に隣接している距離感のなかで、ナショナルチェーンじゃない世界観で仕事や店舗をやりたい人もいるだろうし、住むためのレジデンスとしても価値がある。ここをきっかけにエリアが変わる可能性があるだろうと思い、デザインはOpen A、馬場さんにお願いしようとすぐに直感しました。

相澤毅(株式会社plan-A)

馬場正尊(株式会社Open A): Open Aは設計事務所としてリノベーションの仕事をこれまでに数多く手掛けてきました。そうしているうちに、点のリノベが面に広がり、エリア全体が変わっていくという「エリアリノベーション」の仕事を日本中で仕掛けるようになりました。私たちは新しい視点で不動産を発見して紹介する「東京R不動産」というサイトも運営していて、それも全国に広がっています。物件そのものと、そこを使う人、住む人がおもしろければ、その場所はきっと楽しくなるという経験則があります。今回は、この拠点をきっかけとして、地元の企業である桃山建設がエリア全体に訴えていこうというプロジェクトで、そうした文脈からとてもおもしろくなりそうだと感じています。

初めてここにきた時に一番印象に残っているのは、鴨居駅から降りて、大きな川(鶴見川)を渡った時の風景です。川の土手で自転車に乗っている人、子連れのお母さん、犬の散歩……両サイドがスポーンと抜けた感じにワクワクして、自分のモードが切り替わります。そして、そのワクワクした気持ちのまま、この建物が目の前にドラマチックに登場するんです。近寄ってみて一番に感じたのは、木のにおいです。ここは、ものをつくる空間である、と。しかも迷路状に集合住宅がつながっていて、立体的ラビリンスというか隠れ家のようで、やばいなあ、楽しいなあ、と、ワクワクしました。僕が感じたインパクトは、生物として、人間としての純粋な楽しさであり、それがこの物件のポテンシャルだと思いました。

馬場正尊(株式会社Open A)

■つくる場、つくり続けられる場の特性がにじみ出るファサード

相澤: この場の基本前提として、まずは、ものをつくる場であり、さらにテナントと集合住宅がついています。一般的な不動産としての表現だと、テナントにもオフィスにもなり得て、さらにワークスペースがあって、ものをつくる場と住む場と働く場の、3つの掛け算ができる場という要素が生まれます。

青葉台にある「BADAI BASE」は、地域の団体のイベントや小商い的な空間として活用され、中小企業の成長支援といったポジションを担うなかで、「昔の家族像」が前提にある兄貴肌的な雰囲気を醸し出しています。人が集まることによって生まれるエネルギーを大事にしているそのマインドは、川岸さんが今後代表になっていくであろう桃山建設の新たなDNAになると思いました。そしてこのTHE GUILDは、働く人、つくる人、住む人が交わる場として根源的なテーマをおき、それがどうデザインに生かされるのかについては、Open Aに託しました。

馬場: このプロジェクトでおもしろいのが、3つのキャラクターが融合していることです。一つが、この建物自体のキャラクター。もう一つが相澤さんのキャラクター。そして川岸さんのキャラクターが組み合わさっているように、私には見えています。

相澤さんは前職のリスト時代に、私が教授として務めている東北芸術工科大学の産学連携プロジェクトなどでご一緒していて、その仕事ぶりには感嘆していたのですが、plan-Aとして独立された相澤さんがどんな仕事をされるのか期待していました。そうして、相澤さんが川岸さんをOpen Aに連れてこられて、川岸さんも以前から面識のあった方ですが、彼はとにかく、自分の会社の歴史から語り始める(笑)。自分の代にやらなければいけないことや、次の時代の建設業と地域との関わり方を、すごく考えているんだなあということがわかって、川岸さんの考えが建物にのり移って生きていくように思えたんです

今でもはっきり覚えているのが、川岸さんが「フリーランスの大工さんって、場所を持つのが大変で、それは日本の産業の構造的な問題の一つなんです」と語っていたことです。人手が足りないなかで、熟練の職人がイキイキ働く環境を残さないといけないというのを熱く語っていた。つくる人たちが集まる場、住める場、つくりながら集まれる場が必要だと、川岸さんは最初から言っていました。川岸さんの言うことを編集するようにパズルを当てはめていき、翻訳して空間化していくのがぼくらの仕事です。

近代は細分化の歴史でもあります。ものをつくる行為が、まちではなく壁の内側、つまり箱のなかで行われる時代になり、昔は軒先に「つくる」アクティビティがにじみ出ていたのが、敷地の中に閉ざされるようになったんです。THE GUILDでは、「ここは何かをつくっていく場なんだ」というのが一目でわかる空間になるといい。そうして生まれたのが、ファサードに足場を組んだフレームのデザインです。いろんなものがガシャガシャと、ファサードのフレームにかけられるようなイメージで、THE GUILDでつくっているものが全力で外に発信されるような、隙だらけの足場を前面に持ってきました。それは、プロだけでなく「あなたも関わっていいんだよ」というメッセージでもあり、「関わりしろ」の表現でもあります。この場を訪れる人が「自分が関わってもよさそう」という建物の顔をつくることが、川岸さんのスピリットを隠さず表現することになりました。

川岸: 最初に、足場のファサードのデザインをみた時に「めちゃくちゃいいじゃん!」と、ワクワクしました。あのファサードがTHE GUILDというロゴのネーミングにつながったんです。外観の鉄骨フレームや足場感によって、ずーっとつくり続けることができる、コミットし続けられる、カスタマイズし続けられることを表現でき、ここに来る人によってファサードが変わっていく、そんなことが起こるイメージが生まれました。この場の特殊性は、「ずっと変え続けられる」ことなのかなと思います。

取材時にはファサードにつかうマテリアルが片隅に。

■まちや空間、価値をつくる楽しさを、今、ここで取り戻す。

馬場: まちをつくる、空間をつくる、家をつくることは、いつしかそれ自体が産業になってしまい、全部誰かにやってもらってしまっていた、という状態が続いてきたのかもしれないですね。仕事も楽しむことも、その境界も曖昧になっているから、本当は楽しかったかもしれないそのことを取り戻してもいいんじゃないか。ここに来ると取り戻せるんじゃないか。……というのをTHE GUILDで発信していきたいですね。

相澤: 私は前職が不動産会社で、駅から徒歩何分でどのような間取りで、といった条件での不動産の売買を経験してきました。当然ながら駅近の物件が売れるのですが、それが「なぜ」売れるのか、考える思考は不動産業界にはありません。駅から近いという要素の大多数が「働く」と結びついており、一方で、駅から遠いところで開発をした時にどんな営みを想定できるのかの議論が必要です。

今、「住む」と「働く」の要素が近接し、表裏一体となっています。仕事とはオフィスに行ってするもの、というスタンスがこれまで盲目的に信じられていましたが、それはいずれ絶対に崩壊することに多くの人たちは気づいていません。私はここ数年、それを確信的に感じており、THE GUILDではどのような形で表現していくのがいいのか、フレキシブルに思考をチューニングしていく動き方を心がけました

2020年のコロナ禍によって、一気にオンラインでの働き方がメインストリーームになり、世の中の働き方そのものへの議論を生み出しました。結果的に、「住む」「働く」のバランスの最先端に近いところにTHE GUILDが一気に躍り出ました。

今後、拠点の運営パートナーとしてabout your cityの小泉瑛一さんに入っていただき、コミュニティを醸成しながらブランディングをしていくアクションを担っていただくことになります。小さくとも新しいプロジェクトが生み出されていくなかで、このエリアはおもしろいぞ、という嗅覚を持った人たちが集まってくることになるのかもしれません。

川岸: 私は現在の横浜市青葉区が緑区だった時代に生まれて、そこで育ってきました。現在の青葉区・都筑区の一部が含まれる当時の緑区は、1960年代に開発された住宅街で歴史が浅く、下町や城下町に比べるとおもしろみがないとずっと思ってきたんです。ところが、2014年に実家だった場所をBADAI BASEとしてリノベーションしてショールームを開設し、2017年には同じ青葉台エリアの工務店4社と一般社団法人青葉台工務店を立ち上げて、まちの人たちと関わりを持ち始めると、どんどん地域のプレイヤーと知り合うようになり、「まちに歴史がなくても、つくられたまちでも、人がおもしろければ、おもしろいことができるんだな」と体感的にわかってきました。

BADAI BASEにしてもTHE GUILDにしても、何か新しいことを起こすこと自体は、その時の熱量でできるかもしれないけれど、起こした後に続けていくことのつらさは唯一の不安材料です。多様なプレイヤーの温度感もありますし。THE GUILDの10年後の未来を思い描くのは大変ですが、3年後、5年後くらいまでは思い描かないといけないな、と思っています。小泉さんという強力なパートナーを紹介していただけたことは、運営上での安心感につながっています。

■  大工や職人にとっての「憧れの場」でありたい

馬場: 5年後のTHE GUILDは、きっと、超かっこいい大工が住んでいるんじゃないかなあ(笑)。足場のファサードには木や植物が育っていて、いつの間にか空間に調和していて。ここでもちろん、レベルの高い人たちがものをつくっていて、先進の機材も入って、いろんなことが始まっていて。桃山建設が新しいアクティビティをつくり、大工の職能自体がリブランディングされ、大工のネットワークのハブになる。THE GUILDはものをつくるサロンのような状態で、バーカウンターができて。あまり見たことのないような工場になっているんじゃないかなという気がしています。私はアンディ・ウォーホールが好きなんですが、彼がファクトリーで作品を作るそばで、ローカルの仲間たちがパーティーしている。まさにそういうイメージが、THE GUILDの姿に重なります。

相澤: 中期的には、THE GUILDの一世代が卒業して、その意思を受け継ぎ新たに変化させる世代が入る状態が思い浮かびます。ここの機能は現時点で100%ではなく、その拡張性を第二世代が自分たちでいじって、価値もつくっていくイメージがあります。

川岸: 僕の仕事の根底にあるのは、人の手がつくるものづくり、家づくりです。大工は高齢化していて、今60代以上の大工がいなくなると、住宅業界では本当に大工不足が深刻化します。今から5年後に、「全然大工がいない」という世の中がきます。そんな状況でも、僕の家づくりのまわりには、いい大工がきてほしいと願っています。すでに桃山建設では大工の若返りをはかることができていますが、THE GUILDがあることによって「この会社で働きたい」と思ってくれる大工が集まるといいなと思っています。それが桃山建設のブランディングになるし、社会からは「桃山さん、大工を集めるのが上手だよね。先見の明があるね」という評価につながります。大工は職人であり、既製品の組み立て屋ではない。THE GUILDでものづくりの可能性が広がり、価値の再認識ができる場であったらいいなと思っています。
結果的にこのまちが5年後にエリアリノベーションの発信地となって、地域が変わる要素が生まれたら、オーナーとしてはこれほど喜ばしいことはないですね。

 

対談参加者(敬称略)

施主兼施工:川岸憲一(桃山建設株式会社)

デザイン:馬場正尊(株式会社Open A)

プロデュース:相澤毅(株式会社plan-A)

対談進行・執筆:北原まどか(特定非営利活動法人森ノオト)

スチール・動画撮影:竹内竜太(サンキャク株式会社)

 

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