THE GUILD IKONOBE NOISE

2021年1月09日

-THE GUILD IKONOBE NOISE-第二弾対談企画

「またこのメンバーで仕事をしたい」。永遠に進化し続けられる楽しさを。

2020年12月、横浜市都筑区池辺町に「THE GUILD -IKONOBE NOISE-」が誕生しました。建築の足場をイメージさせるファサードに、店舗、オフィス、コミュニティリビング、そして木材の加工場が共存します。2Fには3タイプの間取りの居住スペースがあり、アトリエとやショールーム、ワークスペースとしても利用可です。
この建物のオーナーは桃山建設株式会社。東京都世田谷区の本社、横浜市青葉区のBADAI BASE、そして築40年余の木材加工場兼社員寮だった池辺町のこの物件をリノベーションし、「つくる」「働く」「住む」が融合した新たな拠点としてリリースします。
施主であり施工者でもある桃山建設専務取締役の川岸憲一、空間デザインの石母田諭・野上晴香(株式会社Open A)、VIデザインを手掛けた服部大吾・小牧美久(株式会社セルディビジョン)、ウェブデザインを手掛けた高橋花奈(株式会社セルインタラクティブ)、リーシング・不動産管理の遠藤啓介(株式会社スタジオアハレ)、拠点運営を担当する小泉瑛一(about your city)、そしてプロデューサーの相澤毅(株式会社plan-A)が、THE GUILD誕生の思いと背景について語り合いました。

■住むほどに満たされる。桃山建設の全社ブランディング

川岸憲一(桃山建設株式会社):  桃山建設は私の祖父が1954年に材木問屋として創業し、その後工務店として66年にわたる歴史を刻んでいます。私自身が桃山建設の専務取締役、そして三代目として、桃山建設の今後のことを強く意識するようになったのは、2014年ごろで、当時から会社の5カ年計画を真剣に考えていました。
2015年に青葉区つつじが丘にある元実家をリノベーションしてBADAI BASEという新拠点をオープンさせ、2017年に地域の工務店組織として一般社団法人青葉台工務店を設立。さらには若手大工の社員制度を開始し、そして、2020年には池辺町の材木置き場兼加工場をリノベーションして、社員大工がもっと輝ける施設にしようと決めていました。

2019年に、いよいよ池辺町のリノベーションプロジェクトを動かそうという時に相澤さんと出会い、気軽な気持ちで相談したら、大事になってしまって(笑)。池辺町、BADAI BASE、桃山建設全体を統合的にとらえ直して全社ブランディングをやることなしに、池辺町のリノベーションを走らせることはできないと、最初の半年間は徹底的に組織の整理に取り組みました。

川岸憲一(桃山建設株式会社)

相澤毅(株式会社plan-A): 以前から、BADAI BASEがつくられた背景を、川岸さん本人や周りから聞いていました。川岸さん本人が設計から施工まで自分一人でコツコツつくってきたとのことで、そのやり方で池辺町に取り組むとまずいな、と。桃山建設の幹部の皆さんたちが、池辺町のリノベーションプロジェクトの意義を理解して、後押ししてくれるような状態をつくるにはどうしたらいいのか、経営者としての川岸さんを孤立させないよう、全社ブランディングをしていくことに最初の照準を合わせました。

池辺町のこの拠点が、建築としても場の機能としてもポテンシャルがめちゃくちゃあることは、最初から感じていました。見た瞬間に、ここをいじれるのはOpen Aしかいない、生の感覚、木の香りが、馬場さんにハマりそうだな、と。次に決まったのがリーシング。東京R不動産で実績のあるスタジオアハレの遠藤さんです。工務店機能は桃山建設が担当できてすでに走れる状態になっているので、あとは桃山建設のブランディングだな、と。次の5カ年計画を見据えて、川岸さんの熱量を受け止めていくにはセルディビジョンの熱っぽさが合う。そして重要なのが、池辺町が動き出した時にコミュニティを運営していくabout your cityの小泉さんの存在です。ちょうど小泉さんがオンデザイン(横浜市中区にある設計・デザイン会社)から独立するタイミングでもあったので、早いタイミングからじわりじわりと関わってもらうようにしました。

相澤毅(株式会社plan-A)

服部大吾(株式会社セルディビジョン):  セルディビジョンはブランディングデザインを得意とする会社です。最終的なアウトプットはVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)やWEBデザインなどになりますが、そこに至るまでのプロセスが大切だと思っており、経営コンサルティング的な視点も持ちながら並走していくことにしました。

桃山建設の場合は、会社本体、BADAI BASE、池辺町の新プロジェクトと当初はウッドデッキの新規事業のブランドをつくりたいという川岸さんの構想があって、それらをまとめあげていかなければなりません。池辺町やウッドデッキブランドだけを考えても、桃山建設全体の方向が定まらないと、各プロジェクトの芯が通っていかないな、と。

服部大吾(株式会社セルディビジョン)

小牧美久(株式会社セルディビジョン):  ブランディングをしていくうえで、社員全員でやるのかトップだけでやるのかなどを話し合いながら、最終的には幹部4人とワークショップをやって、桃山建設の5年後、10年後、50年後のビジョンや、家をつくる時に大切にしていることのキーワードを抽出しました。桃山建設にはどのような強みがあり、未来のビジョンを達成していくには何をしていくべきかの概念図をつくって提案し、コピーライティングをしてVI、ロゴ、名刺や封筒などのデザインをつくっていきました。
桃山建設のブランディングの中で特徴的だったのが、大工さんや職人さんたちが使っていくスローガンとしての「MOMOYAMA STANDARD」です。「10年後も、50年後も、時を超えて末長く豊かに。わたしたちの家づくり」と謳って、「どこに居ても心地いい」」「末長く付き合える素材で」「信頼の社員大工とともに」というキーワードに基づき、木材、素材、性能と、職人技術に対するこだわりを載せています。

小牧美久(株式会社セルディビジョン)

川岸:この言葉は今まで僕たちがやってきたことを表していて、これだけはブレてはいけないというものを、社長も、大工も、現場監督も、設計も、なんとなく感覚的に持っていた概念を言語化できたと思います。「MOMOYAMA STANDARD」によってこれからの桃山建設の基準をさらにブラッシュアップしていき、会社経営をしていくための指針になります。青葉区、世田谷区、そして日本の住宅のこれからのスタンダードをつくりあげたいと思います。

■永遠に進化し続ける、住む+つくるを融合させたファサード

―― 桃山建設は、既製品ではない住宅への思いと、大工技術の継承やものづくり市場をつくることへの熱意に並々ならぬものがあり、それを建築空間にしていくには難しさもあったのではないですか?

石母田諭(株式会社Open A):  Open Aは建築デザインの会社ですが、代表の馬場正尊が元々広告代理店や雑誌の編集長経験があり、東京R不動産のようにメディアをつくることも得意としています。その他にも静岡県沼津市の少年自然の家をリノベーションした宿泊施設INN THE PARKや、UnC.(アンク)という自分たちのシェアオフィスなど、最近は運営なども行っています。
私が池辺町に初めて訪れた時には、馬場が前回の対談でお話ししたのと同じ感覚で、独特の雰囲気の物件だな、と感じました。通りに面したテナントにお弁当屋さんが入っていて、2Fに上がると賃貸住宅があり、奥が木材倉庫兼加工場、裏側には隠し通路のようなものもあり……その独特の佇まいに、訪れたみんなのテンションが上がってしまうような魅力がありました。

野上晴香(株式会社Open A):  川岸さんが図面の青焼きを持ってOpen Aを訪ね、熱く語っていったところから始まりましたね。川岸さんが「社員大工」に対して熱い思いを抱いていることを最初に聞いたことが大きかったです。住宅は生かしつつ、「ものづくり」の空気感や、ソフト面をどう生かすかを悩みながらも考えていきました。

上:石母田諭 下:野上晴香(株式会社OpenA)

石母田:ここで行われるものづくりのアクティビティが外ににじみでたらいいな、と思いました。大工の技術をどう多くの人に伝えていくかを考えると、建築物というよりも大きな家具をつくるような発想で空間全体を捉えていくことになりました。ファーストプレゼンでは、大きな家具を元の建物の中にインストールしていく感覚があって、具体的にファサードに特徴を持たせました。桃山建設に鉄鋼部「桃鉄」があったので、鉄で大きなフレームをつくって木をランダムに並べていく、その後もいろいろな関わりしろを感じられるようなファサードにしたいと考えました。

川岸:プランのプレゼンテーションを受けた時に、複数案あったのですが、ダントツで足場フレーム案がおもしろい! めちゃくちゃ、これいい! と、ワクワクしたのを覚えています。足場って仮設なので、できあがったら取り外すものです。足場自体をファサードにすることで、いつまで経っても建築途中の、ずっと進化し続けるというイメージを持てて、今度はあの足場に何をのせよう、つくって下ろして、またつくって。増やしたり減らしたり、進化し続ける建物というイメージや期待値が、どんどん生まれてきます。

 

―― 住む、働く、つくる、交わる……この建物の持ついろいろな機能を包括するようなファサードデザインは、THE GUILDを象徴しますね。

石母田: THE GUILDはものづくりの拠点になる場所なので、つくりこみすぎないことを意識しました。2Fの住居部分も合板で壁面を構成しているので、色を塗ったり棚をつけたり、使う人によっていろいろに可変できる空間を目指しました。

野上:住居でも、ものづくりをしてもらう、何かを発信できる、趣味の何かを集めるなど、土間をつくることで、住空間+αという、使う人によって選択肢の広がるデザインにしました。

■IKONOBE NOISEがコミュニティや地域にバイブスを生む

―― いよいよ建物が完成して、賃貸住宅部分のリーシングに入るわけですが、そこはスタジオアハレの遠藤さんが担われるのですね。

遠藤啓介(株式会社スタジオアハレ):  私は東京R不動産の募集を行っています。東京R不動産はまさに物件のセレクトショップと言えるもので、変わった物件以外は扱っていません(笑)。
THE GUILDは、これだけのプロジェクトメンバーを揃え、川岸さん始めみなさんがものすごい熱量で仕事をしていて、そうした物件の募集をさせていただけることにやりがいを感じます。このご時世、コロナの影響で住み方を変えている方が圧倒的に多く、生き方や価値観の変化にこの物件がどのように響いていくのか、楽しみです。

そして今後、共同スペースにabout your cityの小泉さんが入って運営していくというのが大変興味深いです。私は、ただのリノベーション物件はたくさん扱っていますが、店舗があり、居住スペースがあり、職人が働いており、コミュニティスペースがあるという物件は、未経験です。いつもは物件が出来上がってから募集をかけるのですが、THE GUILDではつくり上げる過程から参画しているので、オーナーである川岸さんや、プロデューサーである相澤さんたちの思いをダイレクトに伝えられると思います。賃貸物件の出入りが多少あっても、余白が埋まって変化していく様子を長く見ていきたいなと思います。

遠藤啓介(株式会社スタジオアハレ)

小泉瑛一(about your city):  僕の前職は横浜・関内の設計事務所「オンデザイン」で、設計やまちづくりワークショップなどを踏まえて建築に反映していくユーザー参加型の仕掛けをしてきました。相澤さんには前職時代からいろいろお世話になっていました。
僕は今後、このシェアラウンジに週に一度、あるいは二週に一度やってきて、THE GUILDの住民や職人さんのインナーコミュニティをつくっていくのが最初の仕事になります。ここにある木材加工場は専門的な職人の世界で、表向きには「ものづくりができるシェアハウス」とは言いながらも、一般向けのシェア工房ではないので、まずはインナーコミュニティから生まれるコミュニケーションを醸成していきたいと考えます。
同時にエリアに向けたコミュニケーションも必要で、そこで僕がやってきた都市計画やまちづくりワークショップ、住民参画が生きてくると思います。「池辺町が最近熱い」となって、もう一件工場リノベーションが発生してくると、いよいよこの町はおもしろくなってくるのではないでしょうか。そもそも、Open Aは設計事務所でありながらエリアリノベーションをやっていて、その物件を紹介するのが東京R不動産。点が線、面になりつながる土壌はすでにできています。それを僕自身が仕掛けるとういことではなく、偶然発生していく、化学反応がポツポツおきていくまちになると面白いですね。

運営をするにあたって「NOISE makes good VIBES」というコンセプトを考えました。他人と一緒に暮らすことはノイズにまみれていて、面倒なことも多くあります。大工さんが大きな音の出る仕事をしていたら、住民にとってはうるさいかもしれません。基本的に他人との生活は合わないものですが、そこでハーモニーとまでは言わないまでも、いいバイブスを生み出すことができればいいなと。僕はいわば「バイブス調整役」ですね。

小泉瑛一(about your city)

相澤:今後、THE GUILDを発信していくにあたり、ホームページをどうしていくのかについて、元々桃山建設で長くご一緒している方がいたのですが、あえてセルディビジョンに入ってもらうことで、いつも川岸さんがつくるものとまた違う、絶妙な線をついたページになったと思います。

高橋花奈(株式会社セルインタラクティブ):  ホームページのデザインは結構悩みました。とんがりすぎてもいけないし、親しみやすさに寄りすぎないよう、ギリギリまで考え抜いて今のデザインになっています。ウェブサイトは「なんかちょっといいな」という入り口になることを、文章術からも心がけるようにしました。

高橋花奈(株式会社セルインタラクティブ)

■住民の生き方や価値観が丸ごとリノベーションされていく空間

――さあ、ここからがTHE GUILD -IKONOBE NOISE-の新たな始まりです。どんな人に入居してほしいと思っていますか?

川岸:今までは、家賃が入ればどんな方が入ってもいい、というスタンスでしたが、これからは遠藤さんがリーシングの発信を担って、小泉さんがTHE GUILDのコミュニティを運営することによって、住民の価値観や生き方が変わるかもしれない、と思うとワクワクします。すでに作風が出来上がっている芸術家よりも、ここに住むことで、おもしろい発想が生まれて飛び立っていくような、無垢な人が来るイメージがあります。この物件には、ここから巣立って活躍する人を輩出するような、その人の持つポテンシャルを物件やコミュニティの力で変えていくような期待値があります。
テナントにはできれば一つは飲食店を入れたいですね。ららぽーと横浜に寄ったついでに、池辺町におもしろい物件ができたよ、という口コミが広がることを期待しています。

遠藤:池辺町には、町自体に歴史があります。中原街道があり、佐江戸城がありました。江戸から徒歩で1日の距離で、「さあ、江戸」だから佐江戸、という由来があるくらい、古くからの歴史があります。戦後に工業地帯になって、それが転換期を迎えて、ららぽーと横浜やIKEA港北ができ、マンションができ、と、まち自体が変遷しています。今後多分工場機能自体も減っていって、空き物件ができ、そこからリノベーションという展開が生まれていくのではないかと思います。THE GUILDが第1号的なものとして、まちにどういう影響を及ぼすのか、本当に楽しみです。

小泉:もともとTHE GUILDは自動車工場に社員寮がくっついている建物でしたが、今の時代ではこういう物件はあまりない。最近は団地でもDIY改修できるような物件もありますが、それにとどまらないような、プロの加工場に併設された住宅を選ぶガチな人がやってくる展開も可能性としてはあり得ます。
池辺町の工場地帯で、今後どれくらい空き物件が出てくるかはわかりませんが、エリア全体としてファクトリーっぽさが出てくるとおもしろいですね。最寄りの鴨居駅は、横浜線で女子美術大学や多摩美術大学、東京造形大学など、芸術系の大学へのアクセスもよいです。スペースや騒音の問題からアパートで絵を描けない、創作活動ができないといった芸術系大学の学生を取り込むことができるかもしれません。
加工場に鉄の溶接機を持ってきたら自転車のビルダーが入るかもしれない。将来的にはここでショップをやったらおもしろい。そんなふうに、やってみて、どういう人が集まってくるかによって、THE GUILDの魅力も変わってくるかもしれませんね。
僕はこれからも、THE GUILDのデザインや設計メンバーが関わり続けられるように、インナーコミュニケーション、そしてエリア向けのコミュニケーションをがんばっていきたいです。

川岸:ここができたことによって、僕はまた、次にやりたいことのアイデアが浮かんできて……みなさんよろしくお願いします。何かあった時にまたこのメンバーで何かやりたいし、チームのメンバーや、何より社員を信用してプロジェクトを動かして……そんな経験をできたことに、心から感謝します。

プロジェクトメンバーみんなでギルドマーク

対談参加者(敬称略)
施主兼施工:川岸憲一(桃山建設株式会社)
デザイン:石母田諭・野上晴香(株式会社Open A)
VIデザイン:服部大吾・小牧美久(株式会社セルディビジョン)
ウェブデザイン:高橋花奈(株式会社セルインタラクティブ)
リーシング・不動産管理:遠藤啓介(株式会社スタジオアハレ)
拠点運営:小泉瑛一(About Your City)
プロデュース:相澤毅(株式会社plan-A)

対談進行・執筆:北原まどか(特定非営利活動法人森ノオト)
スチール・動画撮影:竹内竜太(サンキャク株式会社)

 

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